こんにちは。福岡で開業した元SE×社会保険労務士の吉田です。
数年前、リーマン・ショック後の日本でも企業の経営状況が悪化し、内定を出したが、その際の労働条件で雇用する事が難しくなる企業が続出し、大きな社会問題となりました。
最悪な場合、秋頃に内定を出し、年が明けて2月や3月に経営悪化により雇用さえ出来なくなる企業もあります。
今回は、そういった企業の経営悪化により労働条件が低下する事案を解説します。
目次
募集時の労働条件について
従業員の採用活動を行う際に、ざっくりとした労働条件を提示します。
そして、内定が決まったら、「内定通知書」や「雇用契約書」などを通して、その内定者の「労働条件」を通知します。
採用時、内定時の労働条件通知の法的規制をみると、
労働者の募集に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
職業安定法5条の3
新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法により労働者の募集を行う者は、当該募集に係る従事すべき業務の内容等を明示するに当たつては、当該募集に応じようとする労働者に誤解を生じさせることのないように平易な表現を用いる等その的確な表示に努めなければならない。
職業安定法42条
と法律上定められています。
また、 これらに違反し「虚偽の広告」や「虚偽の労働条件」を提示した場合は罰則が適用 されます。
労働条件低下の有効性について
募集要項に断定的な表現を行ったか
まずは、応募者が求人内容や募集要項を見た時に、「どう捉えることが出来るか」が争点となります。
退職金などの支給はないのに、「退職金あり」と記載していれば、虚偽となります。
もし、断定的な表現を行っていないのであれば「断定的な表現を行っておらず、募集要項は予定のものである」と主張することが出来るかもしれません。
内定通知書等で労働条件を通知したか
次に、内定を出した後に、内定通知書等で労働条件を通知し、本人の合意を得たかという点が争点となります。
この内定通知書等で労働条件を通知し、 本人と合意の上、雇用契約が締結されていれば、そこに記載された労働条件が雇用契約の内容 になります。
よって、ここの雇用契約の内容を低下させた内容での労働条件は無効となる可能性が高いです。
変更した理由に合理性があるか
最後に、経営上の問題、悪化等で労働条件の低下がやむを得ない場合、
- 従業員が被る不利益の程度が低いこと
- 変更の必要性の内容や程度が客観的に妥当であること
- 募集内容を変更した理由が合理的であること
などが問われる可能性があります。
判例を知ろう
株式会社丸一商店事件(大阪地裁 平成10年10月30日判決)
募集の内容と、実際の内容が異なる場合の判例です。
募集時の内容:退職金共済に加入し、退職金あり
実際の内容:退職金規定がなく、退職金共済制度にも加入していない。
判決:雇用契約締結時に別段の合意がされた事実が認められないことから、退職金の支払いを命じる。
ファースト事件(大阪地裁 平成9年5月30日)
応募者と会社が、募集内容と異なる合意を行えば、その合意に従い、賃金が決定されるという判例です。
募集時の内容:月給16万2千円
実際の内容:月給12万円
判決:面接時に給与について交渉がなされた事実が認められ、退職時まで異論を唱えていないことから、別段の合意が成立したといえる。
最後に
入社後にトラブルにならないよう、 会社としては必ず、「内定通知書」を送付し労働条件を明示 しましょう。
内定通知書を送付してから入社までの間に充分な期間があり、内定者が異論を唱えてこない場合は、労働条件を承諾したとみなされる場合もあります。
しかしながら、トラブルになる可能性もあるため、必ず内定通知書を送付後、承諾の署名をもらうようにした方が間違いがありません。
企業に不信感を持ったまま入社しても、長続きする可能性は低いです。
会社の将来を背負っている人材である事を理解し、内定から入社、入社後組織に慣れるまでの間は十分なケアが必要です。
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