昨今の長時間労働が話題になっている中で、残業代の未払いや、みなし残業としての固定残業代に対して、厚生労働省も「固定残業代」を問題視しているようです。
そこで今回は、固定残業代(みなし残業)について解説し、実務上の留意点を考えたいと思います。
固定残業代(みなし残業)とは
「固定残業代」とは、月給の中に一定時間に対する残業代をあらかじめ組み込むことで、「月給を多く見せ」、「賃金の時間単価を下げる」テクニックとして利用されています。見込み額をあいまいにして残業代をごまかしたりするなどの悪質な法律違反が存在するなど、労使トラブルが多く発生しているのも事実です。
しかし、一定の要件を満たす限り、適法であり、有効な制度なのです。
まずは具体的な例を挙げてみましょう。
<例>月の所定労働時間数160時間(1日8時間、月20日勤務)の場合
イ)【導入前】
賃金総額20万円(基本給20万円)
ロ)【導入後】
賃金総額20万円(基本給15万円+残業30時間分として固定残業手当5万円)
さて、この例の場合賃金総額は同額ですが、ロ)の場合、既に残業代30時間分が組み込まれているため、最大で30時間の残業を行った場合の賃金の時間単価はイ)と比べると下がることになります。
さらには、残業30時間までは割増賃金を支払う必要がありません。
また、もし30時間を超えた場合でも、割増賃金の計算の基礎となる基本給が低いので、割増賃金を抑えることが可能です。
実務上の留意点
固定残業代(みなし残業)制度の導入は、従業員に対して不利益を与える場合もあるため、導入に際しては慎重に、従業員との関係も考慮しつつ進める必要があります。
導入する際は、次の5点を満たして下さい。
- 支給される基本給または手当が割増賃金に相当することが明示されていること
- 支給される基本給または手当のうち、どの部分が割増賃金に相当するのか、金額、割合、時間等が分かり易く明記されていること
- 固定残業代の額が、基本給の額で計算した割増賃金の額を下回らないこと
- 時間外労働(残業)時間が、2で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金を支払うこ
- 1~3について、就業規則や契約書などに明記されていること
3と4が順守できていない事業所が多く見受けられますので、注意が必要です。
従業員の残業時間を考え、実態を上回る額を固定払いの残業代として設定することが有効だと考えます。
まとめ
固定残業代(みなし残業)制度を導入している事業所は多くありますが、誤った解釈による不当な運用で残業代未払いの違反が多く発生しています。特に、固定残業として設定した時間を超過した場合に、別途精算が適切に行われていない違反が多いようです。
また、固定残業代は従業員との間でトラブルになりやすい側面があります。入社時の労働契約書等では分かり易くアナウンスすることが適切です。
しかし、「職場に笑顔を増やしたい」社労士としては、固定残業代を導入して時間単価を業界水準以下に下げるようなことはしてほしくないものです。従業員に不利益が多くなると、職場の雰囲気が暗くなり、せっかく採用し、育てた人材が流出しやすいといった側面があることを理解して下さい。
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